この世で最も尊いスキル(主観)

仕事
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は、ご機嫌でいる力だと思う。 

その日のニュースで見た12星座占いが最下位でも、仕事や家でイライラすることがあっても、寝不足でも機嫌を保っていられるというのは、特殊かつ優れたスキルだ。

厳密に言うと自分の中では不機嫌だろうがぴえんだろうが気持ち自体は誤魔化さなくて良いのだけれど、それを外に出さない力って強いなあと思う。ここで言う「強い」とは、世の中を渡る上で便利、生きやすくなる、といった意味での「強い」である。

自分はそもそもご機嫌でいる力が弱い。ご機嫌でいるためには鍛錬が必要な人間だ。根はポジティブだが短気だし、短気に蓋をできず漏れ出るタイプ(ただし短気な分、怒りを忘れるのも早い)。

この間も在宅ワーク中の昼休み(自分の会社は昼休みの時間が決まっておらず個々に丁度いいタイミングで取る)に上司から電話が二回かかってきて、二回目に結構な不機嫌声で出てしまった。こんな時に上機嫌な声で出て「お、るんたくんはいつも機嫌を保っていて素晴らしいなあ」なんて評価にはならないだろうが、少なくとも不機嫌声で出るよりは印象は良い。るんたのような対応は損にしかならないので、新社会人の皆さんはこのような会社員にはならないようくれぐれも気を付けてほしい。

話が少し脱線したが、もとに戻そう。それではいったいご機嫌でいる力とはなんぞやということで、イメージしてもらいやすいようにご機嫌力のある人物として参考になる方を二人、例にあげさせていただく。

一人目は会社の先輩、Aさんだ。Aさんは3歳のお子さんがいらっしゃる女性だ。

Aさんと同じチームになってからまだ日が浅い頃、Aさんと営業資料を作成していた。タスクとして結構な重さのある資料で、二人でひいこら言いながら作成していた。当然他のタスクもそれぞれある中で、時間の隙間を縫いながら社内チャットで連携を取り作業していた。Aさんは途中、お子さんの保育園のお迎えがあるということで連絡がつかなくなり、21時過ぎなどに再び浮上したりした。

育児と両立しながらのこの仕事量……独身の自分ですら連日の業務量に疲弊しているというのに(この時期は期変わり直後、引き継ぎなどのドタバタで余計に忙しかった)、しんどいだろうなぁと思っていたら、Aさんから衝撃の言葉が発せられた。

「今週ワンオペなんですよねえ。旦那が飲み会でいなくて」

ま じ か。

Aさんはとてもゆったりとそう仰られて、言葉の内容と雰囲気の伴わなさに驚いた。でもワンオペってつまり、超超超大変なんじゃない??というのは流石の自分も察することができる。己のつたない想像力で考える大変さのその更に10倍は大変なんだろうに、言われるまで全然その気配がしなかった。

その日の仕事は結局夜中までかかり、資料の最終的な見直し&仕上げはAさんがした。次の日資料のファイルを開こうとしてファイルの更新時間をふと見たら、なんと朝の4:00だった。まじか。いつ寝ているんだろ。そう思った。

今日のAさんがちょっと不機嫌だったり眠そうだったり疲れていそうでも、自分が部下としてサポートしよう…!などと、おこがましくも一丁前にそんなことを思っていたのだが、その日のAさんもいつも通り、不機嫌さのかけらもなかった。いつも通り穏やかに、時々冗談や雑談を交えながら社内会議を進め、クライアントとの会議も卒なく進め、自分の質問にも快く答えてくれた。金曜日の夜には「今週もお疲れさまでした…!」と労いの言葉を頂いた。チャットの向こうに後光が見えた。

これを期に私はAさんを少し尊敬するようになったのだが、この時Aさんはご機嫌力を用いて社内に味方を一人増やしたことになる。

会社の人間関係はこのようなことの積み重ねなので、トーク力などと異なり見えづらい部分ではあるのだが、ご機嫌力は存外に重要なスキルなのである。ちなみにこのようなことは社会に出てから誰も教えてくれず(まあきっと教えてくれることの方がレア)、私は社会人4年目にしてやっと気付いた。たまにネットで「自分の機嫌を自分で取ることを学べなかった哀れなおきなもしくはつぼねのなれの果て」エピソードを見かけるが、ああはなるまいと気を引き締める。

しかし、ご機嫌力の重要性に気付くと同時に痛感したのは、このスキルは一朝一夕では身に付かないということだ。こればかりは気付いた瞬間から常日頃心がけるしかない。るんたの鍛錬は続く。

さて、参考になる人物二人目をご紹介する。『この世界の片隅に』の主人公 すずさんだ。

現実世界の人物でなくて申し訳ない。しかし私はアマプラですずさんに出会った時から非常に素敵なキャラクターだと感じ、目指すべき理想の人物の一人に掲げている。(大仰に言っているが要するに「推し」ともいう)

『この世界の片隅に』は、太平洋戦争中の呉市(広島県の軍港都市)に生きる人々の生活を綴った物語だ。広島市で育ったすずさんはある日見ず知らずの男性の元に嫁ぐことになり、お隣の呉市で新生活を始めて夫の周作しゅうさくさんや義理の家族と戦時下をたくましく生きていく。

作中では空襲や原爆、戦争がもたらす死の哀しさも描かれているが、絵の優しさも手伝ってか全体的な雰囲気はどことなくほのぼのしており、特に家族や友人たちとの日常シーンは現代と大きくは変わらない人々の暮らしのあたたかみが感じられる。 

しかし何より、どこかほのぼのとした雰囲気の支えとなっているのはすずさんのキャラクターだと思う。すずさんは自他共に認めるぼーっとした性格で、それ故にちょっとしたヘマをすることもままある。しかしどんな状況でもキリキリせず、前向きに自分のペースで進む人だ。そしてその明るさや心のゆとりがいつのまにか周囲の心も解きほぐしている、そんな人だ。

すずさんの好きなエピソードを語ればキリがないのだが(それこそ映画の全シーンを語り尽くしてしまうくらい)、人となりが伝わるようなエピソードをかいつまんでご紹介する。

すずさんが呉に嫁いでしばらくたったある日のこと、お嫁に出ていた周作の姉径子けいこが娘の晴美はるみを連れて出戻ってくる。径子さんはなかなかに気が強いお人で、高校のクラスで例えると一軍女子のギャルにいそう。勝手口で「おかえりなさいお義姉さん」と言うすずさんに「(格好が)冴えん」と強烈なひと言を放つ。(※最初はなんじゃこの人と思ったが観続けると良いところも見えてくる実に人間臭いキャラクター(褒めてる))

径子はすずさんがやっていた家事を引き受け、すずさんのもんぺ(戦時中の普段着)がつぎはぎだらけで冴えないので新しいもんぺを仕立てるように言う。人の格好にアドバイスする辺りもなんかクラスの一軍女子っぽい(ド偏見)。

その日の夜、仕事から帰ってきたお義父さんや周作さんも一緒に、家族で食卓を囲んだ時のこと。一日かけて仕立てたもんぺを着て、すずさんは径子にお礼を言う。「おかげさまでこの通り、着物がなおせました」

それに対して径子はこう返す。「お母ちゃんの脚の具合悪いからうて、あんたみたいな娘を知りもせん土地に連れてきてしもて、私がずっとここへおりゃあよかったことなんよね……。すずさん。あんたぁ、広島帰ったら」

気っ… 気まず……。

これって気づかってる風に見せて帰れって言ってるんだよね。ほら、周作さんやお義父さんお義母さんも黙りこくっちゃって…。径子を止めればいいのに、なんとなくすずさんを無理やりお嫁に来させちゃったかも…と思っている負い目があるから何も言えないんだ。こんな時私だったら間違いなく顔が引きつって「は、はぁ…。」しか言えない。などと思った。

しかし当のすずさんはどうしたかというと。気まずい空間で数秒間言われたことの意味を考えるすずさん。次の瞬間にぽんと手を打ち、こう言うのだ。

「ああ!里帰り!」

このひと言で周作さんや義両親は笑顔になり、「2,3日ゆっくりしておいで」と言ってくれ、径子は引きつった顔で「あ、あんたがそれでええ言うなら、よかったじゃない…」と言うしかなかったのである。すずさんの表情を見るに、彼女は意地悪(?)を言われたことに全く気付いていなかった。すずさん、あなたは強い人だ。自分の中に悪意がないから人の悪意にも気が付かないのだろう。

話が取っ散らかるが、機嫌を損なう要因は内的要因と外的要因の二つがあると思っていて、先に挙げたAさんは内的要因に強いエピソード、すずさんは外的要因に強いエピソードとして見てほしい。

そしてもう一つだけ、最強ご機嫌パーソンすずさんの人となりをあらわす好きなエピソードを。

ある日すずさんは、径子が出戻ってくる前の話をお義母さんから聞く。径子には晴美の他に息子がいるが、建物疎開(空襲による火事が広がるのを防ぐ為、予め建物を破壊して防火地帯を作ること)を経て息子と離れ離れになってしまっていた。そんな話をしながらお義母さんはぽつりと呟く。「みんながわろうて暮らせりゃあ、ええのにねえ…」

それを聞いたすずさんは、船の絵を径子の息子に送ってあげたら喜ぶのではと思い立ち、畑に出て軍港に並ぶ船の絵を描き始める。(すずさんはお絵描きが大好きで、暇さえあれば絵を描いている。すずさんの嫁ぎ先は高台にあり、軍港が一望できる。ちなみに港にいたのは戦艦大和。)しかし運が悪くも、通りかかった憲兵に船を描いているところを見咎められてしまう。

憲兵は玄関先までやってきてお義母さんや径子を呼び出し、「海岸線と艦影を写生しとった!間諜行為じゃ!!こんなこげな顔してどがいに悪辣かつ狡知に長けた計画をめぐらしているかわからん!」とまくしたてた。

しょんぼりするすずさん、眉をよせて顔をしかめているお義母さんと径子。憲兵は他にも怪しいところは無いかと責め立て、夕方になるまで追求は続いた。結局厳重注意に終わり、憲兵が帰った後に静まり返る土間。

いやいや、あれだけ威圧的に失礼なことを言われたら顔もしかめるし、空気もそうなるよね~。と思っていたら、周作さんが帰宅した後で分かる面白事実。

なんと、お義母さんと径子は怒りをこらえるのではなく、笑いをこらえるのに必死だった。憲兵の言う間諜行為と普段見ているすずさんの天然な性格が結びつかず、おかしくて笑いをこらえるのが大変だったのだ。周作さんに何があったかを話しながら爆笑する二人。一緒に爆笑する周作さん。晴美までもが「なんかわからんがつられておかしゅうなってきた」と笑いだす。笑いはお義父さんが帰ってきても続いた。その中ですずさんは、お義母さんの「みんなで笑うて暮らせりゃいいのに」という言葉を思い出し、「ほんまですねぇ…」とひとりごちた。

ここで家族を笑顔にしたのはすずさんの常日頃のご機嫌力の賜物だと思っている。にじみ出るご機嫌力がすずさんの普段の行動をかたどり、周囲の人間がすずさんを信頼し得る理由になったのだ。私はこの場面を、すずさんのアホっぽさを笑っているのではなく、すずさんのご機嫌力からくる人間性が周りの笑顔を作っていることを表すシーンとして捉えている。

すずさんは物事をポジティブに捉える力に長けており、そうした特徴が彼女のご機嫌力を形成している。里帰りのエピソードでも書いたように、根っこにあるのはポジティブな考えだから、人の悪意や貧しい暮らしといった機嫌が損なわれる外的要因に強い。やらかしたーと思うことでも、余裕を持って受け止められる。なんとかなるさの精神だ。

正直すずさんのようなご機嫌力は、Aさんの例で書いたご機嫌力とはまた一線を画するスキルであり、習得にはより時間がかかると思っている。機嫌を損なう内的要因(=寝不足、多忙、不調など)に対する策は、ひと言でいうと「機嫌を保つよう心がける」。これは今も昔も変わらないだろう。(これに対しても色々と思うところがあるので、また別の機会に書きたい。)

ただ、機嫌を損なう外的要因に対する策は、現代社会において難易度がぐっと上がっていると感じる。なぜならSNSの発達も手伝ってネガティブな要素を見つけることが簡単になってしまったからだ。SNSでは匿名性が高いがゆえに嫌な言葉をぶつけられやすく、更に他者がぶつけられているネガティブ要素を勝手に読み取って気持ちが引きずられる機会も多い。更に現実では見えなかったであろう自分よりも遥かに優れた存在を認識できることで、ポジティブのハードルも上がっている。

悪意を見つけに行かない、虚構によって自己に対する満足度のハードルを上げない、というのはSNSが当たり前の生活に身を置くと、存外に難しい。

ただそれでも私は思わざるを得ない。すすざんみたいに、なりたい。

周辺環境のネガティブを跳ねのけるご機嫌力を身にまとい、健やかに生きたい!わずらわしいものをわずらわしいとすら思わない人間になって、自分の好きなことに集中して生きていたい。なぜなら人生は有限だから!ご機嫌なことによって人間関係を円滑にまわせるなら尚ラッキー!

ここまで書いておいて「それならどうすればよいのだろう」という答えはまだ見つかっていない。(ここまで読んでくれた方、ごめんなさい。)絶賛探求中なので、また考えがまとまったら書きます。

ただここで私がいいたいのは、ご機嫌力って世の中を渡る上での強力な武器かつ自分の人生に集中させてくれる強力な鎧なんだよっ♪ってことだ。

すぐには難しくても、心がけるだけでも変わるものはある。そう信じて、私はこれからもご機嫌力の鍛錬を続ける。

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